心優しき狂戦士、沖縄の暴走タコライスの数奇な物語

心優しき狂戦士、沖縄の暴走タコライスの数奇な物語 コラム

これは遠い異国の地でバーサーカー -狂戦士-と呼ばれ、恐れられる心優しき男の数奇な物語である。

異国の地からの奇妙な格闘技のオファー

ある日、様々な格闘技ジムに聞きなれない異国の格闘技のオファーが舞い込んだ。だがそれを聞いた屈強な体をした男たちは大抵顔をしかめた。

聞けばその格闘技はグローブの着用を許さず、頭突きや組み投げ、首を絞めたり後頭部や脊椎への攻撃、故意でなければ金的すらも許された超危険なルールで、さらには判定などはなく、相手をKOしない限り勝ちにならないという超原始的な”どつきあい”をするのだという。

さらに、その異国の地は長い軍事独裁政権から抜け出したばかりで、不安定な国内情勢が続く国だと聞き、なおさら男たちは額にしわを寄せて顔をしかめた。

「そんな国の試合をしたら、下手したら死ぬんじゃないのか? 何のメリットがあるんだ。」

だれしもの頭にそのような言葉が浮かんだのだ。

だが見るからに屈強で彫りの深い顔をした一人の総合格闘家が一も二もなくその話を引き受けた。

そのとき断った格闘家は誰しもが思っただろう。「あいつはやばい」と。

「神の子」との出会い、そして総合格闘家に

沖縄で生まれ、育った。幼少期はとにかく落ち着きがなく、勉強には興味がなかった。

その代わり、小中高と野球部のキャプテンを務めスポーツには自信があった。

だが、高校野球時代に現在も大リーグで活躍しているような一流の選手と対戦し、限界を感じていた。そんな時、たまたま見ていたTVで「神の子」と呼ばれている男を見て、これだったら俺にもできると確信した。

そして格闘技をやるため、3万円を握り締めて上京した。

住む場所もなく、仕事もなかった男はネットカフェに駆け込むが、すぐに所持金が底をつく。三か月ほど浮浪者のような暮らしをしたが、東京にいる知人と連絡がつき、彼の会社の事務所に寝泊まりさせてもらうようになる。そこを住所にバイトを探し金も得た。

1年近く働き、それで得た金で「神の子」がオーナーのジムの門を叩く。晴れて念願の総合格闘家になった。

試合、家族、そして仕事

だが、試合は思うようにはいかず勝ったり負けたりを繰り返す。

そんな中、男は最愛の女性と巡り会い、子を授かり結婚した。家族が出来たのだ。

なんとしても格闘家として食べていくと心に誓っていた男は、寮があってタダで住めると聞いた知り合いの格闘技ジムに移籍し、試合を続けた。

ついたあだ名は暴走タコライス。『K-1』で活躍するトップファイターがつけたあだ名だという。

プロの格闘家と言えば聞こえがいいが、勝ったりの負けたりの選手の収入は非常に厳しかった。1試合で6000~7000円しか得られない時もあった。4か月に1度程度のペースでしか試合が出来ないのもかかわらずだ。

収入を得るため格闘技の傍らまじめに7年間働いた。むかつく客もいただろう。もう格闘技を辞めてしまおうか、そんな弱気になったこともあっただろう。それでも男は辛抱強く格闘技を続け、気づいたらバイト先ではコンビニの店長にまでなっていた。

いよいよリングへ

そんな中で飛び込んできたのが今回のオファーだった。そのオファーのファイトマネーは、彼の6、7年のファイトマネーを全て合わせたよりも高かった。

だからこそ一も二もなく引き受けた。彼にとって、格闘技で家族を食わしていくには「断る」という選択肢など最初から無かったのだ。

そして男はリングに上がった。相手は異国の地から来たMVPも取ったことがあるという男だった。3分5ラウンド制でインターバルは2分。

「ゴンッ!」相手のパンチが自分の顔に当たる。今まで試合では体感したことがない衝撃だった。例えるならば石を投げつけられたような、いや、バットで殴りつけられたかのような衝撃だった。

素手で殴り合うことの恐ろしさを身をもって感じたが、思ったよりも恐怖には負けず体は動いた。男は総合格闘家として得た打撃技術を生かしながら、相手にもパンチをお見舞いしていった。

そして互いに顔から血が流れるのも気にせず、殴り合い4ラウンドが終わったところで両者一歩も引かないままインターバルに入る。

明日コンビニのレジには立てないことが確実な程に顔が腫れあがった。だが男の心は折れていなかった。身体もまだ動いた。しかし、顔が腫れすぎていた。

ドクターが首を横に振る。こうして男の最初の試合はドクターストップにより、敗北してしまう。

だが男は確信していた。この格闘技で王者になれると。

そして迎えた2戦目、相手はまたしても異国の地からやってきた「頭突き王」の異名を持つ男だった。わざわざ異国の地からやってくる戦士は、なにかしらの肩書を持つ強い戦士ばかりだ。

相手の顔がやけにデカイ。何回頭突きをしたらこんな大きさになるんだ。そんなことを思いながらも落ち着いて戦えた。パンチは全て見えていた。今回は行ける。そう感じた。

そう思っていた矢先、いきなり頭突きがきた。「ゴンッ」とんでもない衝撃だった。だが耐えた。「ゴンッ」もう一発来た。まだいける。頭突き等に負けてたまるか。

そう思った矢先、レフェリーが試合を止める。ドクターチェックだ。頭突きで受けた傷は思ったより深かった。一発レフェリーストップ。またしてもドクターストップによる負け。悔しかった。

そして異国の地へ

3戦目を引き分けた後、男はついに異国の地に乗り込んだ。空港は綺麗だった。首都もまたハイクオリティな街並みだ。

しかし計量をクリアし、食事をしている時、まさかの出来事が起きる。突然の便意と吐き気が男を襲ったのだ。身体が痙攣する。食中毒の症状だ。

男は「終わった」と感じたがギリギリまでトイレに行き、リングに上がる。日本を代表して乗り込んでいる以上、リングに上がらないという選択肢など無かったのだ。

だが腹を殴られればリング上で大惨事が起こることは容易に想像できた。腹を守りながら戦った。それには無理があった。無理がありすぎた。顔にいいのをたくさんもらった。

だが男は倒れず最後まで戦い抜き、試合はドロー。

ほろ苦いアウェイでの試合となった。

覚醒の時 バーサーカー -狂戦士-誕生

しかし男はこれで覚醒した。

5戦目を2RTKO勝利し、迎えた第6戦目。

相手は生まれた村全体が格闘技をするしきたりがあり、その中でもエリート中のエリートで異国の地では知らぬものがいないほどのファイター。

試合が始まった。だがもうリングに上がれば恐怖心はない。負ける気がしないのだ。ローキックからの頭突きを食らいながらも、冷静に戦った。

第2ラウンド、相手をつかみ浴びせ倒した。相手は起き上がれない。「タイム!」相手のセコンドからタイムが宣言される。そうこの格闘技は、例えダウン中であったとしても1試合に1回だけ2分間のタイムをかけることが出来るのだ。

タイム後、相手は復活していた。2分間という時間はファイターを起き上がらせるには十分な時間だった。第3ラウンドはお互いに一歩も引かず、男はローを効かせながら相手を削っていった。そして第4ダウンド、いいミドルキックを入れた男は勝ちを確信し前に出る。

相手はいい打撃をもらうたびにこけて逃げる。だが立ち上がってくるたびにさらにいい打撃を浴びせ続ける。とうとう相手は立ち上がれなくなった。

カウントが始まる。「ワーン、ツー、スリー」と言っている間に6秒は過ぎている。応援している人間がやきもきする程の長いカウントだ。

だがこれは相手に忖度をしているわけではない。この格闘技のカウントは1カウント2秒の10カウント制。20秒起き上がれなくて初めてKOとなるルールなのだ。

そして長い20秒のカウントが終わり、完全勝利。これで2連勝。

その放送は異国の地でも放送され、その男の名は知れ渡ることになる。殴られても殴られても向かっていくことから気づけば現地ではバーサーカー(狂戦士)呼ばれるようになっていた。

マイクアピールでは、「今日もうちの娘と息子と嫁さんが来ています。皆さんの応援もそうですが、子供たちの応援あっての僕だと思うので、いつも応援ありがとうございます!」と語り、その頃にはもはやその格闘技が生き甲斐となっていた。

そして王者に

次の相手はチャンピオンだった。そう、男は王者に手をかけていた。そして5ラウンドを戦い抜いたが、この格闘技は判定がない。引き分けしかないのだ。あと一歩のところで王者に手が届かなかった。

しかし、すでに覚醒した狂戦士はすでに水を得た魚になっていた。

続く2戦を引き分けに持ち込むと、2018年12月16日に再度異国の地に乗り込み、タイトルマッチ。相手は将来を期待された選手だったが、バーサーカー化した男にとっては問題ではなかった。終始相手を圧倒し、この年、男はチャンピオンになった。

プロ格闘家になって11年。やっと手にしたタイトルだった。

その後、その男は破竹の勢いで勝ちまくった。試合で指の骨を折ったが、病院には行かず、それを隠して戦い続けた。家族との生活を守るために。

階級上の無敗チャンピオンへの挑戦

そして、その後5戦4勝1分と絶好調のまま、再度異国の地へ。

今度の対戦相手は、階級上の無敗チャンピオンだった。

パンチ連打を喰らい、ダウンした。2分の“タイム”を使用し立ち上がったが、頭突きを喰らい再度ダウン。初の10カウントでのKO敗けを経験した。

厳しい戦いだった。試合の途中から記憶がなくなるほどに。

だがこれで男の挑戦がこれで止まることはない。

新たなる挑戦、熱い試合を観たいヤツだけ観ればいい

戦いの傷が癒えた後はコロナとの戦いが待っていた。海外の選手の誘致が出来ず、国内で大会が開かれないのだ。

狂戦士は国内の試合に目を向けた。向けざるを得なかったのだろう。

そして9.13 『KNOCK OUT CHAMPIONSHIP.2』の参戦が決まる。

長い間戦うことが出来ず、人知れず狂気を溜め続けたその男の戦いは壮絶なものになるだろう。

刺激が苦手なヤツはお断り。熱い戦いを観たいヤツだけ観ればいい。

そう語る傷跡だらけの男の名は渡慶次幸平。

これは故・山本”KID”徳郁氏に憧れて格闘技を始め、世界で一番危険な格闘技と呼ばれる「ラウェイ」で王者になった男の物語だ。

この壮絶な物語の続きは9.13 『KNOCK OUT CHAMPIONSHIP.2』で!

9.13 『KNOCK OUT CHAMPIONSHIP.2』
第1部▷11:00開場/12:00 本戦開始 
第2部▷17:00 開場/18:00 本戦開始 渡慶次選手の試合は第2部 第4試合

https://knockout.co.jp/event/knockoutchampionship2/

心優しき狂戦士

渡慶次選手はラウェイの大会でミャンマーを訪れた際、チャリティに付き添って現地を見に行ったそうです。

華やかな首都ヤンゴンから車を1時間走らせれば弥生時代のような高床式の住居が立ち並ぶ、それがミャンマー。長かった軍事政権の影響で貧富の差が激しいのです。

渡慶次選手は劣悪な環境で勉強するミャンマーの子供たちを見て「恵まれない環境でも笑顔で学校に通う子供達を見て少しでもこの子達の為に環境を整えてあげたい」と思ったそう。

現在では、クラウドファンディングで小学校を再建する等、格闘家として戦う傍らで異国の地で貧しさと戦う子供たちのために、チャリティ活動にも力を入れている心優しき狂戦士なのです。

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